2009年9月29日火曜日

2009年7月12日、「社会起業支援サミットin兵庫」を開催したSESCOメンバーへのインタビュー

 「社会的起業」というキーワードが注目されています。今年(2009年)3月に神戸大学で講演して頂いたノーベル賞受賞者のムハマド・ユヌス氏をはじめ、社会的な課題をビジネスの手法で解決する人たちが「社会起業家」と呼ばれるようになりました。

 彼・彼女らの取り組みは、行政の限界、企業の限界、ボランティアの限界を乗り越え、世界各地で多様な展開を見せています。2009年7月12日、神戸大学の学生を中心として結成されたSESCO(Social entrepreneurship Supporting COmmittee)が、社会起業支援サミットin兵庫を開催しました。

 イベント当日は、6名の社会起業家によるプレゼンテーションが行われ、その後、各起業家の人たちと参加者によるワークショップが実施されました。運営を担ったSESCOのみなさんは、どのようなきっかけから社会的起業に関心を持ち、どのように組織を立ち上げたのか、イベント後に彼らはどのような取り組みを考えているのか等についてお聞きしました。

■参加者(敬称略)
川村(国際文化学部2回生、SESCO代表)
田中(経済学部2回生、SESCO渉外担当)
相澤(聞き手・学生ボランティア支援室スタッフ。サミット当日も参加した)


――――代表の川村君がSESCOを立ち上げました。そもそも、なぜ社会的起業に関心を持つようになったのですか?

川村:テレビの番組で、ある若者が途上国で働いているドキュメンタリーを見た時に、働くことのビジョンとは何か、考え始めました。普通に就職して会社に勤めるのではなく、「こうしたい」という思いを持って働くのが大事だと思ったんです。大学に入る前から外国人との交流には関心があったのですが、神戸大学の国際文化学部に入ってからは、ますます海外に目を向けるようになりました。話せなくても、文化が違っても、コミュニケーションできます。入学直後は、アイセックというサークルの「海外インターンシップ」という文字に惹かれました。最初は、「何回も海外に行けるのか!」と思って参加してみたんです。参加しているうちに、活動の意義などを理解しはじめて、今もアイセックは続けています。それから、フェアトレード関係の活動をしているPEPUPというサークルに、あるイベントで出会いました。そのときは、自分も自己紹介して、その勢いでPEPUPにも参加して・・・という感じで今も続けています。世界に目を向けていきたかったので、国際協力とか、そういうことに関心がありました。現在、自分の中では、キャリア選択、国際協力、社会的起業の三つのキーワードが大きな柱になっています。


2009年7月12日に行われた社会起業支援サミット(於関西学院大学上ヶ原キャンパス)の様子


田中:私の場合、高校生の頃、最初は建築家になりたいと思っていました。でも高校生の時に自分の人生を決めてしまうのには抵抗があって、大学に入ってもっと世界を見てみたいと思うようになりました。大学に入って、最初は、体育会の部活に入部しました。1回生の頃は部活でいっぱいいっぱいでした。でも、もっと自分の視野を広げるような活動もしてみようと感じていた時に、友人からSESCOを紹介してもらいました。社会的起業のことを特集している雑誌を見たりして、社会のため人のために取り組んでいる人がたくさんいるということを知って、関心を持ちました。

川村:4回生の恒本さんというメンバーは、就活を通じて、このままでいいのかと思い留まって、たまたまwebを見て、SESCOに参加してきてくれた。そういう方もおられます。


――――社会起業支援サミットというイベントをやることになった経緯と、動き出してからの状況を教えて下さい。


川村:昨年、社会起業支援サミットを実施した先輩のブログを見たのがきっかけです。「自分の県でもサミット開催してみよう」という呼びかけを見て、やろう!と思って手を挙げてみたのが2009年の1月です。それで、自分の友達に声をかけてみました。学部の友達やPEPUPでの人間関係の中で、友達がさらに別のメンバーを連れてきてくれて・・・という形で仲間が集まりました。呼びかけてみたら、それぞれに何かしらやってみたい、という気持ちは持っているんです。だから呼びかければ参加してくれる。みんな「やってみたい」というふうに思っているんですね。まず最初は、学内の知り合いに呼びかけました。並行してブログを作って、3月末ぐらいに外部の人から連絡が入ってくるようになって、本気の度合いが上がってきました。「これだったらいけるかな」という感じになってきました。その後は、メールをやりとりしたり、人に会って話をしたりして、準備が軌道に乗っていきました。人数が集まってきたら、実際に動かしていかないといけないということで、5月頃から渉外が動き始めました。5月中旬には支援室にも声をかけさせてもらいました。振り返ってみると、1月から3月はコンセプトを考えていた期間でしたね。4月ぐらいから外部の人に会って。学生ボランティア支援室が関わることで、大学の公的な部門の関わりも出てきて、お金の部分でもちゃんとしてきました。インフルエンザがあったり、サミットの本部とのやりとりが大変だったり、というやりづらさもありました。

田中:兵庫のサミットはオリジナルな部分も多かったので、全国のサミットを統括する本部とのやりとりも大変でした。


――――サミットにお呼びした社会起業家の方々とは、どのようなやりとりをされましたか?


川村:サミットの全国本部からのリストの提供があったり、知人経由で紹介してもらったり、協力してもらった人から紹介してもらったりしました。最終的には15団体ほど候補があって、メンバーがそれぞれ調べてきて、内部で検討して決めました。

田中:なるべく分野がかぶらないように気をつけましたね。今まで、外部の大人の方と話をすることはほとんどなかったので、名刺の交換の仕方やメールの送り方など、ビジネスマナーを学ぶことからスタートした。最初は分からないことから。みんなで失礼のないように勉強して。社会起業ということを紹介させていただく上で、中途半端なことはできないと感じてましたし、やろうとしていることの志が高いと思っていたので、みんなのイメージを下げてはいけないというふうに考えました。

川村:起業家の方には、当日プレゼンをしていただくだけでなく、事前にインタビューをしたり、ワークショップの打ち合わせなどを重ねました。

田中:当日には冊子を作って配布したのですが、その冊子を作成するために、起業家の方にインタビューをしたりビデオを撮ったりしました。でも、相手から話を上手に聞き出す方法が分からなくて、そういうところから勉強しました。ワークショップについては、それぞれに起業家のみなさんと一緒に内容を考えたので、そのやりとりが大変でした。事前に渉外班の中でアイディアを用意した上で、先方の意向を聞きながら、こちらからも提案したりして。

川村:一生懸命やりすぎて、周りが見えてなかったところがあったかもしれません。プレゼンだけだと、参加者の側は聞くだけになってしまうので、自分たちとしては、起業家と参加者が一緒に作っていくような部分を用意したいと考えました。今後何か形になっていくような、双方向なコミットメントが必要だと思っていました。



社会起業支援サミット中に行われたワークショップの様子




――――イベントが終わってからの振り返りや自己評価は?


田中:振り返りを3回ぐらいやりました。

川村:各自が、今後の活動に今回の成果をつなげていけると思います。人間関係やノウハウなど、いろいろな成果がありました。サミットに参加していただいた起業家さんたちからも今後どうするのかとか、継続した方がいいという意見も頂いています。現在、大学生協と協力して、アフリカの子どもたちの給食支援に取り組む話も進んでいますし、大学の地域連携から頂いた助成金もあるので、試行錯誤しながら進めていきたいと考えています。


――――今後は?


川村:自分としては、仕事やキャリアのあり方に関心があります。就活して大きな企業に勤めるという流れに対して、もっと多様な働き方や生きるということは何かということについて、他のメンバーにも共通した問題関心があります。そういう問題に、どうやってアプローチするのかは、それぞれに模索しているところです。

田中:自分は特別これに興味があるとか、これをしたいというわけではなく、今はまだいろいろなものを見てみたいという気持ちの方が大きいですね。SESCOにいる人たちは志も意識も高いので、一緒にいろいろ勉強させてもらいたい、刺激をもらいたいと考えています。

川村:SESCOという組織は、今回のイベントのために作ったので、連絡先も団体の名称も変えたいな、と思っています。NPOのような形態もありえるだろうし。とりあえず足を止めずに、動き続けてみます。大学は4回生で終わりというわけではないので、自分たちで自分たちの時間をどう使っていくのか、ちゃんと有効に考えていきたいと思いますし。

田中:支援サミットに参加していただいた方と一緒に、ワークショップで出された提案について取り組めないかということで動きはじめているところもあります。サミットの時にできたつながりで、山に農場を作る話とか、生き甲斐や、自給自足について考える場になったり、そういう話も進んでいます。


――――これまで社会的な活動に取り組んでこられたわけですが、今後、大学や行政に求めるものは、何かありますか?


川村:学生の活動を後押しする体制ほしいですね。たとえば広報とか。学生が組織を作るとか、ボランティアをしようとか考えたとき、先にやれるかどうかという条件を考えたりして、あきらめてしまう人も多いと思います。ですから、大学などの大きなバックアップがあってもいいと思います。スキル面でも、ビジネスマナーやPCのスキル、プレゼンのスキルなどを教えてくれるサービスがあってもいいと思います。自分たちももちろん必死に頑張らなければならないとは思うけれど。

田中:学生ボランティア支援室の存在は大きかったです。PCを使えてミーティングができて、という場所は本当に大事です。

川村:資金は頑張ったら意外と集められます。動き始めて共感してくれる人がいれば、後押ししてくれるし。

田中:パワーポイント貸してくれて、プレゼンのやり方を教えてくれるような場は必要ですね。まずは自分たちのやっていることを説明する必要が出て来ますが、その能力が足りませんでした。自分は最初、川村君の話していることを一生懸命メモって、頑張って練習してプレゼンしていました。

川村:広報のコツなども、学生には分からないので、教えてもらえたら助かります。faxしたあとに電話するとか、どこにプレスリリースしたらいいのか、とかですね。


――――社会的起業という考えについて、思うところはありますか?


川村:普通の会社員の方でも、もっと労働を通じて社会に貢献しているという意識が持てるようになれたらいいと思います。自分は学生の立場ではあるけれど、日本社会は閉塞していると感じています。特にメディアを通じてそういうことを感じます。労働の価値観として、最近、ソーシャルビジネスとかそういうことを言われるようになりました。多くの人が、社会起業家に関心を持ち始めています。仕事を通じて、社会にアクションを起こしていくような、そういう社会でありたいと思います。

田中:多くの学生が、普通に就職していくと思います。でも、社会貢献に目を向けた仕事があるということを、もっと知ってもらいたい。そういう選択肢があるということを、もっと知ってもらいたいと思います。卒業したら、人生のうちの長い時間、仕事をしていくのだから、やりがいを持って仕事をしていきたいと思うし、学生のうちからそういうことに関心を持ってもらえたらと思う。



社会起業支援サミット中に行われたワークショップの様子



――――どうしたら多くの学生が社会的起業などに関心を持つことができると思いますか?


川村:足を動かす機会があればいいと思う。企業のインターンはあるけれど、それだけじゃなくて、たとえばNPOでのインターンに、もっとたくさんの学生が参加できるようになるとか。自分たちが考えていたものとはまったくちがうような労働スタイルとか、たとえば有機農業や自給自足を感じるとか、今までとは全然違うような経験が必要なんです。今までは狭い視野だったのが、こういう働き方があるんだ!という気づきがあればいいんじゃないかと思います。

田中:自分はたまたま友人に紹介してもらって、きっかけを得ることができました。大学に通っていても、どうしたらそういうきっかけを得られるのか、分からない人が多いと思います。でも、話をすれば興味を持ってくれる人はいっぱいるはずです。そういうきっかけをどうやって提供できるのか、まだ整理はついていないけれど、絶対に必要だと思います。


――――長い時間、ありがとうございました。SESCOのみなさんの今後の活躍にも、期待しています。


(聞き手・構成:相澤亮太郎)





インタビューに答えてくれた田中さん(左)と川村君(右)